(この記事はマストドンアドベントカレンダー2018の14日目のために書かれた記事です。また2018年11月に開催された「Mastodon Meetup at Tokyo」の発表のために準備した原稿を大幅に加筆修正し、主に話せなかった部分について詳細に記したものです)

こんにちは。マストドンインスタンス「ボカロ丼」運営のTOMOKI++です。

マストドンインスタンスの運営費用、みなさんのインスタンスはどのようにして回収していますか?

ご存じの方も多いと思いますが、ボカロ丼では、インスタンス内で制作された作品を頒布(販売)し、その売上げをサーバ代に充てています

ボカロ丼で制作しているのは、コンピレーションアルバム(CD)とイラスト集です。

これらを制作し頒布(販売)し、売上げから制作費用を引いた利益分をサーバ代としています。こう聞くと「ああ、なるほど、それは簡単にできそうだな」と思う方と「そんなことで本当に賄えるのか?」と疑問に感じる方がいらっしゃると思います。実際、そこにはいろいろな苦難があります。

この記事では、ボカロ丼がどのようにコンピCDを制作し、どのようにサーバ代回収を実現しているのかを解説します。

なぜ、作るのか。

ここでまず、ボカロ(ボーカロイド)特有の文化について解説します。

まず、ボカロというのは本来、音楽制作用ソフトのプラグインのようなものです。

このボカロを使って楽曲を作る人(俗に「ボカロP」と呼ばれている)が世の中には何千人もいて、「ボカロを使用したオリジナル曲」が、主にニコニコ動画やYoutubeで公開されており、毎日たくさんの新曲が生まれています。アマチュアがこれだけ多くの新曲を発表しつづけそれを多くのリスナーが聴く現象というのは日本の音楽文化の中にはボカロ以前にはあまりなかったものなので、画期的だったと思います。

このように楽曲制作をするボカロPがいる一方で、ボカロのイラストを描いている絵師の方も多数いらっしゃいます。ボカロは、パッケージイラストをキャラクター化して商品展開をしていることや、ニコニコ動画とともに発展してきた文化であることもあり、イラストと音楽がセットで発表されることが多いのが特徴です。このため、ボカロのイラストを描く絵師の方々は、実際にボカロPとともにボカロ曲の新曲の発表の場に制作側としてコミットし、一緒に文化を創り上げてきたのです。

ほかにも、作詞を専門にやる方、動画制作を専門にやる方などいろんなスキルを持った方がボカロ界隈にはたくさんいます。

このように、ボカロ文化は、気軽に「作る側」に立てるという特色をもった文化と言えます。

ボカロ丼でも、タイムライン上で毎日誰かが新曲を発表している状態です。

ボカロ丼で制作しているコンピレーションCDは、このようなボカロ丼にいるボカロPが日々制作している曲の中から選りすぐりを集めたCDです。もちろんこのコンピのために一から曲を書き下ろす方も多く、コンピに提出することで制作ペースを維持されている方や、コンピごとのテーマによって普段とは違うジャンルに挑戦することで予想外の新曲が生まれる土壌になったりなど、新曲発表を促進することにも貢献しています。

タイムライン上では「いつも誰かが何か作っている/描いている」状態ですので、それをみんなで持ち寄って発表しよう!というのは必然の流れだと言えます。

※ボカロ丼には、このような「作る側」の人がたくさんいます。もちろんリスナーオンリーという方もたくさんいらっしゃるのですが、世の中の人口比率的には圧倒的にリスナーが多いはずであることを考えると、ボカロ丼は制作側の方に寄っている印象です。

コンピレーションが実現するまでの経緯

ボカロ丼がオープンしたのが2017年4月16日、そこから一週間ほどですでに最初のコンピ企画が立ち上がりました。その後しばらくして二つ目のコンピ企画が立ち上がり、主催者の異なるコンピ企画がボカロ丼内に同時進行する形となりました。この書き方でわかるとおり、いずれもボカロ丼運営の僕が主催しているわけではなく、タイムライン上で自然に発生してきた企画です。

最終的には1つ目の企画は頓挫し、2つ目の企画「ボカロ丼ガールコンピ」が最初のコンピ企画として発表されました。この企画は、CDではなくニコニコ動画上でリレー形式で毎日楽曲を公開していくというスタイルを取り、最終的に音源をまとめてダウンロード販売する、という形でした。

この「ガールコンピ」の公開が開始された2017年夏、CD化を目指した初コンピ企画と、イラスト集の企画が立ち上がりました。また、ボカロオンリーイベントであるVOCALOIDM@ASTERおよび冬のコミケにボカロ丼としてブースを出し、そこでそれらの制作物を頒布する、という計画になりました。この企画は僕が初めて主催しました。

そして、このCDやイラスト集の最初の頒布イベントの売上げを見て、「これでサーバ代を回収する運営モデルは実現可能なんじゃないのか」というアイデアが浮かんだのです。

※文中で「販売」でなく「頒布」と記述している箇所が多いのが気になった方もいらっしゃると思います。これは大人の事情ですので詳しくはググってください。

コンピレーションの種類

ボカロ丼では、この記事を書いている時点で合計13回のコンピ企画が実現しています。

このうち、サーバ代回収を目的にしたコンピは現時点で3つのみです。

ボカロ丼での企画の立ち上げは、コンピやイラスト本に限らず、思いついた人が自主的に行っているのがほとんどです。どのくらいの頒布数を目指すのか、どのくらいコストを掛けるのかなどはすべて企画者に委ねられていますし、費用もそれぞれの企画者が出しています。そういうこともあり、ボカロ丼印をつけたコンピCD自体は気軽に企画し制作できるようにした上で、利益を出す目的のCDはそれはそれで制作していくというスタイルになっています。

こういった流れは最初からそうしようと思っていたわけではなく、自然にできていったものです。現在ではサーバ代回収目的のものを「公式コンピ」、そうでないものを「公認コンピ」と呼び分けるようにしています。

なお、公式コンピはボカロ丼の運営費用回収を目的とするため、制作資金も運営が出しています。

権利の問題

版権などの問題に詳しい方は、この「ボカロCDを売って利益を出す」という手法は、権利的に大丈夫なのか? と思われる方もいらっしゃるかもしれません。特に二次創作を主流とする日本の同人文化というのは、経費(人権費は含めない)を差し引いてトントンになるような売上げで利益を出さずに行っているものが主流です。明確な利益が出る場合には正式に版権料を支払うなどしてクリアしたり、グレーゾーンとして黙認されたり、度が過ぎると揉めたり、など様々です。

ボカロ丼ではこのような権利問題もクリアし、合法的に活動しています。

実はボーカロイド自体は、前述のように音楽制作用のプラグインのようなものなので、その料金に使用権が含まれています。ですので、これを使って制作した楽曲に関しては、ほとんど制限なく販売し利益を得ることができます。大多数の方のイメージとは異なるかと思いますが「ボカロ曲は二次創作物ではなく一次創作物」扱いになります。

※もちろんカバーでないオリジナル作品に限ります。

ボカロが二次創作となるのは、そのボカロの名称やキャラクターのイラストなどを利用する場合です。たとえば、CDのジャケットに「初音ミク」のイラストを載せると、その時点で二次創作となり、利益を出すことはできません。なので、ボカロ丼の公式コンピのジャケットにはボカロの絵は描かれていませんし、曲目の一覧にもどういうボカロを使っているのかが一切書かれていないのです。

一方で、イラスト集については、完全に二次創作物となります。ですのでイラスト集そのものは利益を出すことはできません。では、イラスト集を買ってもボカロ丼の運営費にとってメリットにならないのか? というとそんなこともありません。ボカロ丼のコンピCDを頒布するイベントでは、イラスト集も一緒に頒布しています。このためイベント出展費用の一部をイラスト集の売上げから賄うことができます。これはコンピCDの経費削減(=サーバ代回収の増加)につながりますので、結果的にイラスト集が売れると間接的にサーバ代に貢献することになるのです。

実際のところどのくらい回収できているの?

最初の公式コンピがリリースされたのが昨年の11月ですので、2017年11月~2018年10月の1年間で集計してみました。この1年間のボカロ丼公式頒布物の売上げ合計が約50万円、経費が約25万円で、差し引き25万円がサーバ代として回収できました。ボカロ丼のこの1年間のサーバ代合計は約40万円でした。回収率はざっくり3分の2と行ったところです。

ただ、現在のボカロ丼のサーバはやや余裕のあるスペックで運用しているため、切り詰めればだいたい年30万円くらいには収まると思われます。そう考えると必要な金額の85%は回収できている、とも言えます。

みなさん、この数字を見てどう思われましたか? 「簡単ではないけど無理でもないな」と思いませんか?

ただ、これはあくまでサーバのレンタル料金の回収をMAXとした場合の話で、サーバ管理の人件費などは一切入っていません。また制作費用に関しても、楽曲提供していただいた方への謝礼は一切ありませんし、イベント頒布を手伝って頂くスタッフの人件費や交通費なども一切支払っていません。営利企業のプロジェクト基準での回収率となると10%にも満たないのではないでしょうか。

まとめ

ボカロ丼のこの方式は、インスタンスを利用している人だけでなく、全く利用していないボカロリスナーの方々もサーバー代を出してくれている、という点が特徴的で、これが持続可能性に寄与していると僕は考えています。インスタンス利用者へのカンパの呼びかけだと、結局同じ人が何度もカンパするだけになり疲弊する可能性があります。一方でボカロリスナーという広い範囲をターゲットに物販するというスタイルであれば、作品を作り販売することに注力すればサーバー代は自然と回収されていきます。

マストドンの運営費用をどのように回収するのかは、各インスタンスの運営のみなさんが頭を悩ませる問題だと思います。(同じことができるかどうかはともかく)ボカロ丼の例を一つの参考にして頂ければと思います。

余談(マネタイズとは何か?)

僕がこれまでにいくつかのNPOや、町おこし、協同組合、任意団体などに関わってきた経験からいうと、「マネタイズが大事」という言葉には、多くの罠が潜んでいます。確かにマネタイズを無視したプロジェクトが続かないのは言うまでもありませんが、そのプロジェクトごとに目指すレベルが大きく異なることを意識する必要があると思います。違うレベルのマネタイズメソッドを持ってきて適用してもだいたいの場合、上手くいきません。

マネタイズとは何なのかについては、大きく分けると以下の3種類によってを頭を切り替える必要があると思います。

A:購入する備品や外注費用などを継続的に支払える状態にするレベル。

同人活動や趣味での金銭のやりとりなどがこれにあたります。ボカロ丼のマネタイズもこれを想定しています。

B:上記に加え自分たちの活動人件費を賄えるようにするレベル。

NPOなどの非営利活動がこれに当たります。たまに「人件費を出したら非営利ではない」と勘違いている方もいますが、それは間違いです。人件費を経費に含めた上で利益が出ない構造になっている活動が非営利活動です。

C:上記をクリアした上で、さらに利益が残ることを目指すレベル。

いわゆる普通の営利企業がこれにあたります。もっとも、多くの企業の実態はBなんですが。

ここで「レベル」という語を使いましたが、これは必ずしもA→B→Cという順にレベルが高いとかそう進むのが理想だという話でもなく、目的によって目指すところが異なるものだと思います。

マストドンのインスタンスを運営する上でも、多くの場合はAを想定するかと思います。しかし、たとえば資金援助を企業などに求めようとすると、多くの場合Cが前提となっており、その利益の分配について期待する話になったりするでしょう。その場合大きく齟齬が生じることになります。

話が多少それますが、同人で活動しているイラストレーターが企業の案件を受けるようになってトラブルに遭うような話もよく聞きます。そういうケースでもこのレベルをまたがって金銭のやりとりを行っていることによって金銭感覚が異なり問題が生じている(あるいは企業側が故意にそれを利用している)ことが多いのではないでしょうか。

このように、マネタイズに関しては、同レベル間でない場合には相互理解がとても難しいです。僕がボカロ丼の運営で適用しているマネタイズのノウハウは、会社経営によって得たものよりも、NPOや協同組合などに関わってきた経験によるところが大きいです(実はコミケなどの同人活動の経験はボカロ丼運営以前にはほとんどないです)。

マストドンは小さなインスタンスがたくさんできてこそ可能性が広がるものだと思います。マストドンインスタンスのマネタイズ手法の研究もまだこれから進んでいくと思いますので、みなさんも楽しいマストドンライフ(謎)のためにいろんなアイデアを出し合って盛り上げていきましょう!

最後に宣伝です。

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公式コンピ新作は、まだイベント頒布のみです。こちらをご覧ください!

http://info.vocalodon.net/special/jazzcompi2018/

これまでの作品一覧はこちら(入手方法や視聴動画などは各ページをご参照ください)

http://info.vocalodon.net/special/